魔女っ子(予定)少女 まなちゃん 目次へ戻る

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魔女っ子(予定)少女 まなちゃん

 

 22−1.黒の姫君の接近

 

《これなんかどうかなぁ。ね。やっくん。》

《ああ。いいんじゃないか。》

《んもう。やっくん、さっきから「いいんじゃないか」しか言わないんだから。》

《だってさー、僕にはよく分からないんだから仕方ないだろ。》

今日はウインドウショッピング。
まなちゃんと僕、二人だけで少し遠出をし、某所にある大きなデパートへ来ている。
いつもの買い物は、予算の関係上、近くの市街にある量販店と決まっているのだが、
今日は最初から「見るだけ」のつもりで出てきたので、どうせなら高級なのが
見たいという彼女の希望により、ここまで足を延ばして来た。

陳列してある商品を見ては「素敵だねー」と、ため息をつき、
その値札を見ては「はぁぁ…」と、またため息。

まなちゃんくらいの年齢になると、もう体格は成人に近い。
服もキッズ向けではなく婦人用の小さめのサイズが着られるようになってくる。
子供服と比べると選択肢が格段に増えるので、普段の買い物でも迷うことが多くなる。

《なによー。
 やっくんにも見てもらおうと思って、今日はポケットに入れてあげてるのに。》

まなちゃんは、人差し指で僕の頭をツンツン小突いた。
試着室の中、壁のハンガーに掛けられた彼女の上着、その胸ポケットの中に僕は居る。

《これじゃ、どこに居ても同じだねぇ。やっくん、もう、お尻の方に入っとく?》

《わかた! わかったから。》

じつを言うと僕は、こういった煌びやかな場所には慣れていない。
売り場の雰囲気に圧倒され気味で、普段でも少ない口数が余計に減っている。
その点、まなちゃんは堂々としたもので、店員の視線攻撃をものともせず、
買えもしないくせに、次から次へと試着しまくっている。
既にウインドウショッピングの定義を逸脱していることは明らかだ。

《でもさぁ、服の感想なんて、どう言えばいいんだ?》

《そんなの、「かわいいね」とか「似合ってるよ」とか、いくらでもあるでしょ。》

《ええっと。よし。
 それじゃ、とりあえず。
 まなちゃん、それ、かわいいよ。》

《………あのねぇ、やっくん。》

《え? あ… (°°;) 》

《いま、あたし、着替えの途中なんですけど?》

僕が賞賛の声をかけた、そのタイミングは、間の悪いことに、
ちょうど彼女がワンピースを脱ぎ終わり、下着姿のその瞬間だった。
薄いスリップの向こうには、お気に入りの「ぱんつ」が透けて見えていた。

《ま、ま、まなちゃん。ぼ、僕はね。
 「ぱんついっちょ」が可愛いって言ったんじゃなくて、
 ああっ! 今は、ぱんつだけじゃないけど、
 いや、「ぱんついっちょ」は可愛くないって言ってるわけでもなくて、
 そう。まなちゃんは「ぱんついっちょ」でも可愛いんだよ。 だけど…》

《もう。しょうがないなぁ。わかったから。
 ちゃんと見てから言ってよね。ホントにもう、やっくんってば…》

試着室を出て通路を歩き始めても、まなちゃんのお小言は収まらなかった。

《やっくんって、こういう時はいつも》

どんっ!!!
「きゃっ!?」どたっ!
「あっ!!」ばたっ!
「うわーーーっ!!」ひゅるる〜〜〜………ぽてん…

解説せねばなるまい。
まなちゃんは、僕との会話に気を取られて歩いていたので、
誰かと出会い頭に衝突してコケたのである。
相手も転倒したらしい。
ちなみに、
  「きゃっ!?」どたっ! = まなちゃん
  「あっ!!」ばたっ! = ぶつかった相手
  「うわーーーっ!!」ひゅるる〜〜〜………ぽてん… = 僕
である。

「ぁ痛たたぁ。ごめんなさい。へいき?」

「はい、わたくしは大丈夫です。」

「あっ! この人…」
「あら。 あなたは…」

ぶつかった相手は、どうやら、
先日、山で道に迷ったときに、帰り道を教えてくれた女の子らしい。
こういう偶然もあるのだ。
彼女は、まなちゃんと同じくらいの年齢のようだが、
そのわりに、妙に落ち着いた話し方をする、変わった娘だ。

一方、その時、僕は床の上に転がったまま、ボーっと天井を見ながら、
二人の会話を聞いていた。
衝突のはずみで、まなちゃんの胸ポケットから放り出されて飛ばされ、
床に頭をぶつけたらしい。
そこへ靴音が近付いてくる。カッカッカッと硬い感じの音だ。

「お客様! お怪我はございませんか?」

店員らしき制服の女性が駆け寄ってきた。
黒いエナメルの低いヒールのパンプスが、仰向けに倒れた僕を跨いで行く。
その上空には、紺色のタイトスカートの奥に赤っぽいショーツが
黒のパンストに包まれて霞んで見えた。

(はっ!? いかん。逃げなくては!) 

店員のお姉さんのパンツなど、のんびり鑑賞している場合ではない。
このままここに転がっていたら、運が悪ければ、通りがかった誰かに踏み潰されるか、
運が良くても、誰かに見つかってしまうのは時間の問題だ。

「お怪我がなくて、なによりです。
 ごゆっくりお買い物をお楽しみくださいませ。」

事故の当事者である二人に異常が無いことを確認すると、
店員はお愛想の笑みを残して去っていった。

「ごめんなさい。あたし、よく見てなかったから。」

「わたくしの方こそ、
 ぼんやりしておりまして、申し訳ございません。
 ところで………あそこに居る…あれは何でしょうか?」

その視線の先、床の上に小さな影が動いていた。

《あ!? やっくん?》

それは他でもない、僕だった。
こそこそと物陰に向かって移動中のところを、彼女に見られてしまった。

まなちゃんが、ドタバタと駆け寄ってくる。
その勢いのまま、ビーチ・フラッグスのように、僕を手のひらで鷲づかみにした。

(むぎゅっ…)

「以前にお会いしたときと同じような、
 あなたと一緒にいらした男性と同じような感じを受けますが…」

《どうしよう!? 見つかっちゃう!》

「少々、拝見してもよろしいですか?」

《もうだめ! やっくん、ごめん!!!》

《まなちゃん、何を!?》

ぱくっ… ごっ…くん…

呑み込まれた。
まなちゃんは、握った手を口元に寄せ、
僕を口の中に吸い込むと、一気に喉の奥へ押し込んだ。

今の僕の大きさは約5センチある。
まなちゃんにとって、そのまま呑み込むには大き過ぎる。
が、彼女は強引だった。

《ぎゃー! 痛て! いてててててて!》

いきなりだったので、僕も、呑み込まれるための体勢を整える暇がなかった。
僕は、受け身も取れないまま、彼女の喉の中で強力な筋肉にギチギチ押し縮められ、
くしゃくしゃの塊になって食道へと落とされた。
こうして「証拠」は、おなかの中へと消えた。

「大丈夫ですか? 何か生き物のようでしたけど?」

「うっく…ごほっ…ごほっ……………べ、べつに、なにも…」

まなちゃんは、むせ返りながら、切れ切れの返事をする。
僕を無理に呑み込んで、彼女の方も喉が痛かったに違いない。

「なるほど、あなたがあの時おっしゃっていた 『 ひろいぐい 』 ですか。」

「ち、ちがうよ。」

「やはり、人間の、男の方の 『 気 』 が…
 こんどは、あなたのお腹のあたりから感じますね。」

まなちゃんは、自分の胃袋の場所をズバリ指差され、どうしていいか分からなくなり、
「うー」とか「むぁー」とか意味を成さないうなり声を上げている。

(痛ててぇ… 無茶苦茶しやがって…)

僕は、まなちゃんに乱暴に呑み下されてしまったが、意識は保っていたので、
とりあえず、胃の中に居ても消化されないように変身した。

それにしても、無理して呑み込まなくたって、
いつものように、お尻の中にでもテレポートすればよかったはずだが、
まなちゃんは、かなりテンパっていたらしい。

「けれど、お腹に納まってしまったのでは、どうしようもありませんね。
 この 『 気 』 を発しているのが何なのか、ぜひ見せていただきたかったです。」

「うー…」

「とりあえず、少し休みましょうか。」

彼女は、まなちゃんを促し、階段の踊り場に設置されたベンチに並んで腰掛けた。

「何か飲みますか?」

まなちゃんは首を振る。

「先ほどは、たいへん失礼いたしました。
 そういえば、自己紹介がまだでしたね。
 わたくしの名前は、 『 まどか 』 と申します。あなたは?」

「……まな…」

「まなさんですか。可愛いお名前ですね。
 この近くに住んでらっしゃるのですか?」

「……電車で…ちょっと行った所…」

「そうですか。
 わたくしの家は、この近くなんですよ。
 先日お会いした時は、御知山の別荘に滞在しておりました。」

「………」

「このお店には、よくいらっしゃるのですか?」

「………」

「あなたとは色々とお話ししたかったのですが、
 今は落ち着いてお話しが出来ないようですねぇ。」

「………」

「では、わたくし、本日はこれで失礼いたしますね。いずれまた。」

まどかさんはそう言い残すと、売り場の方へと戻っていった。

彼女の年齢は、まなちゃんと比べてそれほど変わらないという情報だったが、
彼女の話しぶりだけを聞いていると 「 まどかちゃん 」 ではなく
「 まどかさん 」 と呼びたくなってくる。
今の時点で、僕は彼女の姿をまともに見たことがないし、彼女の声すらも、
そのほとんどが、まなちゃんの体内から聞いた不明瞭な声だけなのだが。

《まなちゃん! まーなーちゃん! おーい。返事しろよ。》

《やっくーん。こわかったよー。》

《まあ、まなちゃんの気持ち、わからなくはないけど、
 この前のお礼くらいは言った方が良かったんじゃないかな。》

《あたしだって、黙ってたら悪いなーとは思ってたんだけど、
 何か言ったら、やっくんのことが知られちゃいそうだったんだもん。》

《そうだな。あの娘、なんかカンが鋭そうだったし。》

まなちゃんと僕の秘密が、いったいどこまであの娘に悟られてしまったのかが
問題だが、とにかく、これ以上の情報漏えいは避けなければならない。
あの娘がこの近所に住んでいるのなら、もう、この辺りには近付かない方が
よいだろう。

《そっか。ここ、もう来れないね。
 あーあ、あのバーミリオンのジャケットとスカート、欲しかったのにな。》

《来たって、どうせお金、無いから買えないだろ。》

《わかんないよ? あたしだって、ある日突然、お金持ちになっちゃうかも。》

《どうやって?》

《うーん。保険金とか?》

《何の保険金が入るってのさ?》

《保険って、大事な物に掛けるんだよね。だったら、やっくんかな。》

《僕のこと大事って言ってくれるのは嬉しいけど、
 「 モノ 」 って言い方されると微妙…
 っていうか、まなちゃん。保険掛けて僕をどうするつもりだ?》

《死んじゃったらお金がもらえるんでしょ?》

《うわー。非道ぇ。何てこと言うかなー。》

《うふふっ。冗談だよ。》

《でもなあ。
 まなちゃんと付き合ってると、いつも死にそうな目に遭うからなぁ。
 やっぱり、今のうちに保険にでも加入しといた方がいいのかもなぁ。》

《そしたら、やっくんで安心して遊べるね。》

《僕 「 で 」 かよ?
 しかし、まなちゃん。
 残念だが、コビトには戸籍も住民基本台帳も無いから生命保険は無理だ。》

《じゃあ、ペット保険にする?》

こうして、とりあえず、その場の不安感を拭い去るために、
胃の中身と、その胃の持ち主との、くだらないおしゃべりが続くのだった。

ところで、僕は、この娘の 「 おなかの中 」 から、どうやって出たらよいのだろう…

     ここ で、脱出方法を検討中。 (別Windowです)

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《まなちゃん、急いで帰れよ。道草なんか食ってちゃダメだぞ。》

《わかってるよ。だから近道してるでしょ!》

現在の時刻は、午後四時を少し回った頃。
現在の状況は、学校からの帰り道。

先日の事件(あの、デパートでの一件)の後、
僕は、まなちゃんと一緒に外出するのを控えていた。
あのとき会ったカンの鋭い彼女に、また出遭わないとも限らないからだ。
決定的な証拠であるコビト本人がその場に居さえしなければ、
あの彼女に何を追及されようと、問題にならないはずだ。

しかし、今日に限っては、ある事情により、やむなく、
まなちゃんと僕は一緒に行動していた。
とにかく一刻も早く安全な 「 自宅 」 へ帰り着かなければならない。

《まなちゃん。今日は早く寝ろよ。》

《わかってるったら。》

今朝、まなちゃんは、目覚まし時計が鳴っても起きなかった。
ハッと気付いたときには、時計は、学校の始業まで間が無いことを示していた。
キャーキャー悲鳴にも似た声を上げながら、大急ぎで身支度を整えて家を出た。

何とか遅刻は免れたものの、彼女は大切なことを忘れていた。
彼女の要望により、彼女が穿いている下着の中に押し込められて寝ていた「僕」の
存在を。
結果、僕は、彼女と一緒に登校することとなったのである。

《そういえば、前にも一度、似たような事があったよなぁ。
 あの時、僕は酷い目に遭ったけど、今日は平穏無事で良かったよ。》

そして、僕は今も、彼女が穿いているショーツの内側にあるポケットの中だった。
彼女の 「 女の子 」 の匂いと、汗やオシッコの臭い、湿り気が充満した場所である。
この場所は、普段なら主に夜間、僕が彼女に添い寝する時に使っている。
このポケットは薄手のガーゼで出来ていて、寝相が悪い彼女のお尻の下敷きに
ならないように考慮し、ショーツの前方の下の部分に貼り付けられている。
この場所ならば、彼女の太ももの間の隙間にあたるので、彼女が寝返りしても
潰されたりしないし、昼間でも、彼女がどんな姿勢になっても、まず安全である。

家まで近道するため、通学路から少し外れた公園を横切った。
その公園の出口が見えた、その時だった。

「こんにちは。」

不意に声をかけられた。聞き覚えのある声だった。

「あっ! あ…あ…」

「まなさん、お待ちしておりました。」

「ま、まどか…ちゃん…」

「はい。 少々、お話、よろしいでしょうか?」

まどかさんは、にっこりと微笑んだ。

《どうしよう! やっくん。 逃げる?》

《いや、逃げたら、かえって怪しまれるぞ。
 僕がサポートするから、話をしてみようか。》

《うん…》

「よろしいですか?」

「う、うん。ちょっとなら…」

二人は近くにあったベンチに、並んで腰掛けた。
僕は、まなちゃんの股の間から、3枚の布越しに聞き耳を立てる。
ちなみに、これらの布の素材は、内側から順に、
  綿100% 〜 綿100% 〜 ポリエステル60%+ウール40%
となっている。

「あの日から、あなた方の事が気になって仕方がなかったのですよ。」

「あぁ、はい…」

「お話しする機会を得ようと考えておりましたが、
 折角ですから、お二人がお揃いの時がよろしいかと思いまして。」

「はあ…」

「あれから、まなさんは、ずっとお一人で外出なさっていたでしょう。
 本日は、お二人が揃っていらしたようなので声をかけさせていただいたのです。」

(やべっ! お見通しみたいだぞ!?)

ある程度は予想していたことだが、やはりショックだった。
まどかさんには、僕の存在が分かってしまうらしい。

それでも、まなちゃんは抵抗を試みた。

「おふたり? それって何かなぁ? あたし、ひとりだけど?」

「では、そこにいらっしゃいますのは?」

まどかさんの視線は、まなちゃんの股間にフォーカスしていた。

「あうぅ…」

《やっくんの居る所、じっと見てるよぉ。》

《うーん。どうやら、僕の 「 気 」 とやらが、まどかさんには分かるみたいだ。》

《どうしたらいい?》

《とにかく、とぼけてみろ。
 そうだな。矛盾が無いように、あの時言った寄生虫とでも…》

「だっ、だからね。ほら、寄生虫だよ。
 二人じゃなくて、一人と一匹じゃないかな?」

「そうですか。でしたら、これは寄生虫だったのでしょうか。」

まどかさんは、そう言って何かを差し出したようだ。
まなちゃんは、それを見て絶句している。

《やっくん! これ…》

まなちゃんからのテレパシー情報によれば、
まどかさんが差し出したのは、一枚の写真。
そこには、あの時の、デパートでの僕の姿が写っていた。
しかも、拡大写真になっていて、僕が床の上を這っている姿がハッキリ写っていた。

まどかさんは、いつもカメラを持ち歩いているのだろうか。
しかも、とっさに撮影して、これほどまでに鮮明な写真になるとは。
偶然かもしれないが、もし意識して写したのだとすれば、撮影のテクニックは
相当なものだ。それに、これだけの引き伸ばしに耐えるとなると、カメラの方も、
かなりの高性能のはずだ。
そんな仰々しいカメラを持っていれば、いやでも目立つ。
撮影禁止のデパートの中を、どうやって撮影スタンバイのまま
堂々と持ち歩くことができたのか、不思議だ。

「そ、その写真。それ、人形だよ。キーホルダーに付いてた。」

「それを、あの時、あなたは食べてしまったようですが…」

「あたし、人形を食べるのが趣味なの!」

そろそろ、誤魔化しも限界らしい。僕がフォローする余裕も無く、
まなちゃんの言い訳は、グダグダなものになっていった。

「たいへん失礼とは思ったのですが、いろいろと調べさせていただきました。」

「調べたって。あたしを?」

「はい。こんなものもありますよ。」

それは、動画ビデオだった。
携帯端末の小さな液晶画面の中には、僕が、まなちゃんの肩に乗って、
身振り手振りを交えながら会話している様子が映し出されている。
それに続いて、僕が鳥に変身して窓から飛び立つ様子が、
人間の姿から鳥に変わるまでバッチリ撮られていた。

まどかさんには、すでに僕たちの住所が知られてしまっている。
それだけではなく、家の中まで撮影されている。
「盗撮!それは犯罪だ!」と公の場へ訴え出るわけには行かない
…という僕たちの事情を把握した上での行為だろうか。

そうなると、他にも色々と調べられている可能性が高い。
探偵でも雇って調査させたのだろうか?
僕の存在が、コビトの存在が、まなちゃんの能力が、
僕たちの秘密が明るみに出てしまったら!? 最悪の事態だ。
そんな僕の考えを見透かしたかのように、まどかさんが告げる。

「ご安心なさってください。
 このことを存じている人間は、わたくしだけです。
 写真やビデオも全部、わたくしが撮ったものですから。」

《やっくん。どうしよう…》

《うーん…
 僕たちのことを知られたのがこの娘だけなら、
 いっそのこと、この娘も魔法でコビトにするか?》

《えーっ!? 元に戻せなくなっちゃうんだよ? かわいそうだよ。》

《まあ、そうだよなぁ。僕も、それは 「 やり過ぎ 」 だと思う。》

それに、たとえ、まどかさんをコビトにしたとしても、安心はできない。
僕がコビトにされたときは、僕には家族や親戚などが全く居なかったので、
一人の人間が突然消えても、誰も気付かなかった。
しかし、彼女にそんなことをしたら、失踪事件として大騒ぎになる。
一人の女の子が行方不明となれば、警察が動き、本格的な捜査が行われる。
捜査が進めば、誘拐事件に発展することは目に見えているし、
状況証拠から、まなちゃんの身辺まで捜査が及ぶのは確実だ。
そうなれば、まなちゃんと僕の秘密を守るどころではなくなる。

「それにしても驚きました。
 まなさんには不思議な力があるのですね。」

(ぎくっ…)
《ぎくっ…》

「な、なんのことかなぁ。あたし、わかんない。」

「でも、お二人が、そのようなお話しをなさっていらしたのをお聞きしたのですが。」

「そんなの、知らないもん。」

「それでは、思い出していただけるようにしますね。」

まどかさんは、先ほどの携帯端末を取り出した。
イヤホンを耳に当てて、何やら操作している。

「確か、このあたりに………ああ、ありました。」

携帯端末からイヤホンを外してスピーカーに切り替える。

「うそっ!?」
《なにぃ!?》

携帯端末から聞こえてきたのは、まさに、まなちゃんと僕の会話だった。
彼女と僕との出会いについて二人で話した 「 思い出話 」 のようなもの。
いったい、どこで録音されたのか。
外出先では、ほとんどテレパシーで会話をしているし、
そもそも、前にも説明したとおり、あの件以来、まなちゃんと僕が、
一緒に外出することは今日まで無かった。となると…

その時、携帯端末から聞き覚えのある音が聞こえてきた。
会話の中に埋もれかけた小さな音。何か音楽のようだ。

『♪ ♪ ♪ ♪ ♪   ♪♪
 ♪  ♪♪ ♪   ♪♪♪  ♪♪ ♪ ♪ ♪ ♪         』

《あ、これは!》

それはメロディークロックの時報の音だった。
聞き覚えがあるはずだ。
間違いない。まなちゃんの家の居間の壁にかかっている時計の音だ。

(ということは…)

それは、家の中での会話が筒抜けになっていたことを意味している。

「なんで? どうしてこんなのが録れちゃうわけ?」

まなちゃんのその一言で、全てを 『 自白 』 したようなものだった。

僕は舌打ちした。
写真や動画に加えて、これだけ完璧に盗聴されていては、対処のしようがない。

「録音した方法ですか。
 それは、近頃は色々と便利なものがありますから。」

「そうだ。あの時、あたしに盗聴マイク、付けたのね?」

「いいえ。この時は、
 レーザーを窓ガラスに反射させて、その振動を音に変える機械を・・・・・」

真面目に答える彼女の説明を聞いてか聞かずか、まなちゃんが喚いた。

「なんだかよくわかんないけど、それじゃ、それじゃ、
 あたしとやっくんが、ときどき、夜、一緒に○○○○○してることとか、
 やっくんの△△△を、あたしが指で▽▽▽▽して気持ちよくしてあげて、
 お返しに、やっくんが、あたしの
 ◇◇の穴に体ごと入って□□□して気持ちよくしてくれたのも知ってるの!?」

「そうですねぇ。知っていたり、いなかったり…
 …と申しますか、お二人で、そういった事をなさっていたのですね。」

「あたしが、やっくんに○○○○○してもらったこと、
 もしかして、もしかして、ばらしちゃうの? みんなに言っちゃうの!?」

「そんなつもりは、まったく無いですけど、
 ○○○○○は自分でするものだと、わたくしは思います。
 でも、そうですね。◇◇の穴の□□□は気持ち良さそうですね。」

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(注)○△▽◇□についてのお話を知りたい方は ここ をクリック。 (別Windowです)
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「ひどいよ! ひどいよ! どうしてこんなことするの?」

「不愉快な思いをさせてしまって、申し訳ございません。わたくしは、
 ただ、あの生き物のことが詳しく知りたかっただけなのです。他意はありません。」

「やっくんのこと?」

「はい、珍しい生き物だと思い、調べさせていただきました。
 一時はトロルの類かとも考えましたが、どうやら人間型のコビトのようで、
 まなさん達のお話を伺いますと、彼は、康博さんという本物の人間の男性だとか。」

「う、うん。」

「そして、もともと普通の人間だった彼を、まなさんが魔法で小さくした…」

「・・・・・」

「小さくしたけど、元に戻すことが出来なくなった…」

「そんな事まで知ってるの?」

「はい。そのあたりの事情も、大まかには理解しているつもりです。」

「それじゃ、どうして?
 まどかちゃんは、あたしのことが恐くないの?
 あたしに魔法をかけられたら、まどかちゃんも小さくなっちゃうんだよ?」

「そうですね。
 そうなれば、わたくしも、今のままの暮らしを続けることは出来ませんね。」

「だったら、あたしに近付いたら危ないって思わないの?」

「それは…」

まどかさんは、一呼吸置いて、まなちゃんの目を正面から見つめた。

「まなさん。あなたが、とても心優しい方だと分かっているからです。
 康博さんの事を調べさせていただく過程で色々な事が分かりました。
 あなたは、他人を故意に傷付けるような事は絶対にしない方ですね。」

「でも、あたしは、やっくんを小さくしちゃって、元に戻れなくしちゃったし。」

「それは、その当時は、元に戻せないという事をご存知無かったからでしょう。
 あなたは、もう、その事を知っていらっしゃいますから。
 取り返しのつかない魔法を、人に対して使おうとはお考えにならないですよね?」

「あたし、優しくなんかないよ。
 やっくんに、意地悪しちゃうことだってあるんだから。」

「しばしば遊びがエスカレートしてしまうことはあるようですね。
 でも、康博さんは、あなたのことを本気で怖がったりしないでしょう?
 康博さんも、あなたのことをよく理解していらっしゃるからだと思います。」

「だけど…」

「わたくしも、あなたのことが好きになりました。
 よろしければ、わたくしと、お友達になっていただけないでしょうか?」

「ええっ! 友達って、でも…」

僕は、ずっと黙って二人のやり取りを聞いていた。
最初はハラハラしていたが、やがて気持ちが妙に落ち着いてきた。
まどかさんは、まなちゃんのことを根掘り葉掘り調べ上げたが、
逆に、彼女自身のことも、何も隠すつもりは無いのではないか。
根拠は無いが、なんとなく、そんな気がする。

《まなちゃん。もういいだろう?》

《やっくん?》

テレパシー。
唯一、まどかさんに情報漏えいしないと思われる手段である。

《ここまで知られちゃったんだし、まどかさんに悪気も無いみたいだ。》

《そうかもしれないけど、じゃあ、どうするの?》

《僕たちのことを知られるだけじゃ悔しいだろ?
 ここは、友達にでも何にでもなって、
 まどかさんのことも色々と知ってみたらどうかな?》

《………》

《な?》

《んー。やっくんがそう言うなら。》

《それじゃ、友達ついでに、僕のことも正式に紹介してよ。》

《うん… わかった。》

まなちゃんは、きょろきょろと周囲を見回した。
そして、他の人が近くに居ないことを確認すると、
自らのスカートの中に両手を突っ込み、ごそごそとまさぐった。
僕は、彼女のショーツの中のポケットから這い出し、クロッチの上に降りた。
彼女の太ももが通っている部分のゴムが広げられて出来た隙間から、
一本の指が突っ込まれて来た。

「やっくん。こっち。」

僕は、その指を両手と両脚で抱え、滑り落ちないように、しっかりとつかまった。
ショーツと太ももの隙間をくぐり、スカートの下から外へと引き出された。

「くっ。眩し…」

瞬間、明る過ぎて何も見えなかった。
薄暗い下着の中から、いきなり陽のあたる屋外へ出るなど滅多にないことだ。

数秒後、外の明るさに慣れはじめた僕の視線が、まどかさんの視線とぶつかった。

「まどかさん? ええっと。はじめまして…かな?」

「康博さん。 やはり、そこにいらしたのですね。」

まどかさんが、嬉しそうに微笑んだ。

僕が彼女の姿を落ち着いて見たのは、この時が初めてである。
御知山で会った時は、姿どころか声も直接聞けなかったし、
先日デパートで会った時はチラッと見ただけだった。

こうしてよく見ると、まどかさんは、かなりハイレベルの美少女だ。
すらりと整った体つき。色白の滑らかな肌。
卵形の顔には、円らな黒い瞳、控えめな鼻に薄い唇がバランスよく並んでいる。
丁寧に編み上げてお団子にまとめた艶やかな黒髪が特徴的で、
日本人形を見ているような感じがした。
特に髪はすごい。お団子のボリュームから見て、もしかすると地面に届くかと
思われるほど長そうだ。しかも、あれだけ綺麗に編めるということは、
先端まで傷みが無く、ちょうど良い太さの健康なストレートヘアなのだろう。

チャラチャラとした萌え系ではない。控え目だが深さを感じさせる美少女。
「 可愛い 」 という言い方より 「 美しい 」 という表現の方が、
より相応しいと思う。
それは、品種改良を重ねた薔薇のような派手な美しさではなく、
山の中に ぽつん と咲くササユリのような清楚な印象を受ける。

「ええっと、あんな所に僕が入ってて、変だと思っただろうけど、あれは…」

「コビトさんにとって、安全だからでしょう? 存じておりますよ。」

女の子が穿いている下着の中に、コビトの男が入っているという、
普通に見れば 『 大変態 』 の行為について、
彼女への説明は要らないようで、助かった。

「まなさん。
 康博さんと会わせていただいた事がご返事だとすれば、
 わたくしとお友達になっていただけると思ってよろしいのですね。」

「うん。だから、秘密は守ってよね。絶対だよ!」

「もちろんです。もとより、そのつもりですよ。」

「わかった。あたしも信じるよ。」

「ありがとうございます。
 それでは、あらためて自己紹介させていただきますね。」

まどかさんは、桔梗女学院初等科の五年生。まなちゃんと同学年だった。
住所は音妙市。
6月生まれの双子座。
得意な教科は国語と理科と社会。
苦手な教科は体育。
好きな食べ物は醤油煎餅とポトフ。
嫌いな食べ物はイクラと牛乳。
趣味は、気になった事をとにかく 「 調べる 」 こと。
それも、他人の手は極力借りず、全て自分で調べる。
その点では、単なる好奇心旺盛な女の子ではない。
あれこれ考えて、工夫して、調べる過程そのものも楽しみのうちだという。

こうして、あらためて彼女の正確な年齢まで判明してしまうと、
今まで少し大人っぽく感じていた彼女の姿や仕草も、
なんとなく幼く見えてくるから不思議だ。
今までは、なんとなく 「 まどかさん 」 というイメージだったが、
やっぱり 「 まどかちゃん 」 のほうが違和感が無いように思えてくる。

ところで、桔梗女学院といえば、僕も聞いた事がある。
たしか、有名な私立のお嬢様学校だ。
どこかの少女漫画に出てくるような全寮制でコテコテの学校ではないが、
世間一般のイメージ的には、その辺の公立小学校と一線を画しているのは確かだ。

「だから、まどかちゃんの話し方ってこんな感じなのか。」

「やはり、おかしいでしょうか?」

「そうだね。子供らしくないっていうか…」

「そうですか。じつは、学校でも、級友から同じように言われております。」

「え? あそこの子って、みんなそんな 『 しゃベリ方 』 じゃないの?」

「いいえ。この言葉遣いは、わたくしの癖なのです。
 他の皆さん方は、まなさんと同じような話し方ですよ。」

「ふーむ。そうなんだ。」

まどかちゃんと僕の視線が、それとなく、まなちゃんに向く。

「あっ、自己紹介、あたしの番かな?
 ええっと、あたしは、佐和都小学校の五年生で…って、
 まどかちゃん、わざわざ説明しなくても、こんなの全部知ってるよねぇ?」

「そうですね。ごめんなさい。
 それでは、まなさんが康博さんと出合った時のお話を聞かせてください。」

「出合ったとき? あたしとやっくんが?」

「はい。 これまでの 『 調査 』 では詳しく分からなかったものですから。」

「えー… そう言われても…」

「なあ…」

まなちゃんと僕は顔を見合わせる。

「そうだな。
 僕は、風来坊旅行の途中で、まなちゃんに出会ったんだけど。」

「たまたま、やっくんが、あたしの家の近くの公園に居て、
 全然知らない人だったのに、あたしは、やっくんを見てたら、
 なんだかわからないけど、魔法をかけてみたくなっちゃって、
 一緒に遊ぼうって言って、やっくんを人の居ないところへ連れて行って…」

「知らない人に付いて行っちゃダメだよって言うけど、
 僕は、それを守らなかったからコビトにされちゃったわけで(笑)、
 まあ、まなちゃんが、とってもいい娘だったから、それは幸運だったかな。」

それは僕の素直な想いだった。
まなちゃんが相手だったから、今日までなんとか無事(?)にやってこられたのだ。
普通の子供にコビトが捕まったとしたら・・・
散々オモチャにされて飼い殺しにされるのが目に見えている。

「そこが不思議なのです。
 なぜ、偶然そこに居ただけの、見ず知らずの、
 しかも大人の方に、まなさんが興味を持ったのでしょう?
 普通の子供でしたら、そんな人物を見かければ、むしろ恐がると思うのですが。」

「あたしだって、なんでだか、わかんないよ。
 やっくんを初めて見たときはね、えーっと…
 胸の中でね、楽しい気持ちと心配な気持ちが混じった感じで、
 どうしても魔法をかけなくちゃいけないって、それだけずっと思ってて………」

「まなちゃんは、魔法を覚えたばかりだったから、
 誰でもいいから、とにかく使ってみたかっただけなんじゃないか?」

「不思議なのは、康弘さんもですよ。
 何故、康弘さんは、まなさんの誘いに素直に従ったのでしょうか。
 普通ならば 『 大人をからかうな 』 などとお説教をするものでしょう?」

「うーん…
 あの時は、子供の気まぐれに、ちょっと付き合ってやるかって感じで…
 暇だったし、僕も子供は好きな方だし、まなちゃんは可愛い感じだったし。」

「その時のお二人の様子を他人から見ると、限りなく犯罪に近いですよね。
 康弘さんにも、その当時、それくらいの判断は出来たのではないかと思いますが。」

「いや、たしかに、
 冷静に考えれば、ものすごく倫理的にヤバいけど、
 その時は、なんだか、そうするのが自然というか、
 まなちゃんの言うとおりにするのが当たり前のような気がして…」

「なるほど。
 やはり、お二人の出会いには、何か特別なものがあったのですね。」

それは、まどかちゃんが言うとおり、偶然にしては出来過ぎているような気もする。
そういえば、前に、まなちゃんのお母さんも、そのようなことを言っていたはず…

「ますます興味が湧いてきました。お二人の事をもっともっと知りたいです。」

「えーっ!?」
(あちゃぁ そうなるのか?)

話すだけ話して、彼女の探究心を満たしてやれば、僕らへの興味は薄らぐだろう
…という甘い考えは、逆に、火に油を注ぐ結果となってしまったらしい。

 


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