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魔女っ子(予定)少女 まなちゃん

 

 20.オトナの事情

 

「あ〜ん! 終わらないよー!」

「ああ、もう。遊んでばっか、いるからだぞ。
 だから、もっと早くからやっとけって言ってたのに。」

そこには修羅場が展開していた。
今日は8月31日。しめきりの日。
この状況も、夏の終わりの風物詩と言ってよいかもしれない。

「やっくん。算数お願い!! 適当に間違えといてね!
 あたしは作文に、それから…きゃあ!! 工作もやってないよぉ!!」

けたたましい声が響きわたる中で、
僕はプリントのリストと見比べて、完了状況を確認する。

「自由研究は…出来てるのか。」

ノートを[全力で]めくってチェックする。
身長5センチの僕にとっては、薄い紙を一枚めくるだけでも重労働になる。
そんな貧弱な体力で、重くて巨大な鉛筆を持って、ちゃんと文字が書けるのか?
という心配は無用である。
ちゃんと、サポートしてくれるメカを造ってある。
コビト用『インテリジェント・スーパーソニック・インパクト・ペンシル』!
先端部が高速で振動して、筆圧がゼロに近くても文字を書くことが出来る鉛筆だ。
しかも、ジャイロと姿勢制御装置を搭載し、最新のデジタルプロセッサが文字書きを
サポートしてくれる。
特長は、以下のとおり。
    ・小さくて軽く、コビトにも扱える。
    ・書く線の太さや、かすれ具合が微妙にコントロールでき、
     普通の鉛筆書きと変わらない文字が書ける。
    ・基本的に鉛筆なので消しゴムで消せる。
    ・筆跡登録が可能で、他人の筆跡を真似できる。
    ・省エネ。
    ・静音。
    ・格安。
    ・地震に強い。
    ・滋養豊富。
    ・無農薬。
    ・オマケ付き。
  ※コビトが小学生の宿題を手伝うときなどに最適です!

これで、文字を書くのは楽になったが、ページをめくるなど、その他のことは、
相変わらず自力で対処する必要がある。

そんな中で僕は、ふと、自由研究のノートの隅に不吉な文字列を見つけた。

「まなちゃん…これ…」

僕が絶句していると、まなちゃんが上から覗き込んできた。

「あ。消すの忘れてた。
 それはね、自由研究でとってもやってみたかったテーマなんだけど、
 やっくんの秘密がバレちゃったら困るからね。だからやめることにしたの。」

「そ…そうだったのか………助かるよ………」

まなちゃんが消しゴムでごしごしやっている、そのすぐそばで、
僕は冷や汗をたらたら流していた。
そこには、こんな内容が書いてあった。
    ビフィズスきんは、生きたまま、ちょうにとどいて、美容と健康によいです。
    だけど、コビトは、ちょうにとどく前に、とけてしまうそうです。
    どうしたら、コビトが、生きたまま、ちょうにとどくか、実験します。

∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽

夜も10時をまわった。
手ごわかった夏休みの宿題も、なんとか片付きつつあった。
僕は残りの宿題の『工作』を相手に奮闘中である。
その一方で…

「うぬぅ。まなちゃん。こんちくしょ。気持ちよさそうな顔して。
 僕がこんなに苦労してるってのに。誰の宿題なんだよ、まったく!」

まなちゃんは力尽きて、テーブルにもたれたまま眠ってしまっていた。
朝からずっと続いた戦いだったから、小学生なら無理もないのだが、
やはり納得し難いものがある。

「それにしても、これ、工作っていうより、建築工事だよなぁ。」

身長5センチの僕にとって、宿題の工作といえども、簡単に出来るものではない。

「ふうっ! もうすぐ完成だぞ… だけど、あと1時間はかかるな…」

僕は、ここで一休みすることにし、
テーブルの上に転がっている消しゴムの上に腰を下ろした。

「どは〜っ。疲れたぁ〜。」

「ご苦労様。 お茶でもいかが?」

「ああ、ありがとう……………って!?」

まなちゃんの方へ視線を走らせた。
相変わらず、すやすやと寝息を立てている。

(まさか…)

まなちゃん以外で、この家に居るのは…
僕は首をすくめて、そっと振り返った。瞬間、心臓が凍り付いた。
そこには、まなちゃんのお母さんの園子さんが立っていて、
薄笑み顔で僕を見下ろしていた。
いつの間に仕事から帰ってきたのか。迂闊だった。
工作に一生懸命で、園子さんが部屋へ入って来る気配に気付かなかった。

(バレた!?)

僕はそのまま微動だにできなかった。
いつかのように、人形のフリをしようか?

(ダメだ。もう僕が動いてる現場をしっかり見られちゃってるよ。)

「ほらほら、遠慮しないで。一緒にいらっしゃいな…」

(うひー!)

絶望的状況に声も出ない。
園子さんは、硬直している僕をヒョイとつまみ上げて、まなちゃんの部屋を後にした。

∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽

僕が連れて行かれたのは、園子さんの部屋だった。
あの時のことを、はっきり思い出していた。
あの夜、僕はこの部屋で、『人形』として園子さんに玩ばれた。
バイブレータの先に縛り付けられて使われ、めちゃくちゃに痛めつけられた。
しかし、今の状況は、その時の何倍も恐ろしい。
僕が人形ではなく生きたコビトであるということが、園子さんに知られてしまったのは
間違いない。
だが不思議なことに、園子さんは、小指ほどの大きさの僕の姿を見ても驚く様子はない。

まなちゃんの話によれば、
園子さんは、小さな生物を『丸ごと生きたまま』食べるのが好きらしい。
シロウオ、ドジョウ、サンショウウオ、ハチの子・・・
口の中に入れると無駄な抵抗をして暴れる…その感触が良いのだという。
この僕も、園子さんの夜食にされてしまうのではないか?
そう思うと、全身がガクガク震えてきた。

園子さんは僕をテーブルの上に置くと、戸棚の方へ行って何かカチャカチャやっている。
やはり僕を食べるための準備をしているのか。
僕は腰が抜けて、逃げようにも立ち上がることすら出来なかった。

《たっ… 助けてくれ! 助けてくれぇ! まなちゃん!!》

ありったけの精神力でテレパシーを発信してみたが、応答は無い。
まなちゃんは、一度眠ってしまったらタダでは起きないから、
僕のテレパシーを受信してくれている望みは非常に薄い。
ジタバタと僕があがいている間に、園子さんがきびすを返す。
こちらに向かって来るのが視界の端に映った。

《なんとかしてくれ! 食われる! 殺されるよぉ!》

戻って来た園子さんの手にはブランデーのボトルがあった。
僕は酒の肴にされてしまうのか。

園子さんは僕の前に何かを置いた。それはグラスに入ったブランデーのようだ。
ただ、そのグラスは妙だった。異常に小さい。
僕にとって、ちょっと大きめかというくらいの大きさなのだ。
直径が5ミリ弱の極小のグラスだ。それはオモチャなどではなく本物のようだった。
どうして、このような物がここにあるのだろうか。

「どうぞ、ご遠慮なく。」

園子さんは自分のグラスにもブランデーを注いで回し始めた。
こちらは、もちろん普通の大きさのグラスである。

僕は迷った。
何か変な薬でも入っているかもしれない。
だが、こんな僕に薬を盛ってどうしようというのだ。
そんなことをしなくても、コビトの僕が抵抗など出来るはずもないのに。

「用心深いのね…
 大丈夫よ。おかしなものは入ってないから…」

「ぼ…ぼくを…どっ…どうするんだ!」

僕は震える声で、やっと言葉をしぼり出した。
園子さんは相変わらず微笑んでいる。

「この間は楽しかったわねえ。
 タンスの引き出しの中にコビトが居るんですもの。ちょっとだけ驚いたわ。」

「!?」

知っていた!
園子さんは、あの時既に気付いていた。
僕が生身の人間であることを。あの時、僕が人形のフリをしていたことを。
それに気付いていながら、僕を散々オモチャにしたということだ。
背筋がスーッと凍っていく気がした。

「まっ、また、僕を オモチャに?」

「あら、今夜も遊んで欲しいの?
 あの時は今にも死にそうな顔してたじゃないの。ふふふ…」

「そんな…」

僕は絶句した。
今度こそ園子さんのアナルの中で絞め殺されてしまうのだろうか。

「あの時は…
 貴方があまり可愛かったから、
 ちょっと苛めてみたかったのよ。
 今日はあんな事しないから、安心してちょうだい。」

「………」

そんな言葉だけでは、僕の不安は収まらない。

「今日は、ちょっと、ご挨拶しておこうと思って。
 まなの大切なパートナーの貴方にね。康博さん。」

「えっ! どうして僕の名前を?」

「あら、ちょっと調べれば、それくらいすぐわかるわよ。
 あなたが、いつも何処で寝ているかとか、
 まなと何をして遊んでいるかとかもね。簡単なことよ。」

(うわ〜っ! みんなバレてるのか!? 殺される!!!)

遊びといえば、いつも、まなちゃんの方から仕掛けてきているとはいえ、
僕は、まなちゃんと、人に言えないようなことをたくさんしてきたのだ。
親からすれば、可愛い娘に付いた虫を退治しようとするのは当然のことだ。

(もうだめだ! 僕は今夜の酒の肴代わりに、園子さんに食べられてしまう!!)

僕が目をつぶって震えていると、園子さんは一段と優しい声になった。

「あらあら、ごめんなさい。おどかしちゃったかしら?
 貴方をどうしようとか思ってないんだから。
 反対に、申し訳ないって思ってるのよ。あの娘のワガママにつきあってもらって。」

僕は、そっと目を開いた。

「貴方がそんな体になったのも、まなの魔法のせいなんでしょ?
 ごめんなさいね。こんな事に巻き込んじゃって。あの娘の魔法はまだ不完全だから…」

「そんな事まで知ってるんですか?」

「知ってるわよ。だって、私も魔女だもの。」

「ええっ? 園子さんも?」

「そうよ。
 ただ、私は今は力をほとんど失くしてるけどね。
 今の私が持ってる『魔力』は、あの娘とたいして変わりないわ。
 もちろん、私の方が経験も知識もテクニックも豊富だから、出来る事は多いのよ。」

「えっ!? それじゃあ、僕を元の大きさに戻すことも…」

「ごめんなさい。それは無理なの。
 そうねぇ。どう説明したらいいかしら。
 私たちの魔法は『魔波』を使ってかけるんだけど…」

「まは?」

「そう。Magic Wave ね。
 電磁波とか重力波とか、そういうエネルギー波の仲間だと思えばいいわ。
 そして、魔波が他のエネルギー波と違うところは、
 それを使う者によって固有の揺らぎのパターンがあるの。
 指紋が一人一人違うようにね。だから、あの娘と私の魔波パターンも違う…」

「パターンが違うと、どうなるんですか?」

「魔波に当たって一度変化したものには、
 その魔波のパターンが焼き付いてしまって、
 次からは、そのパターンと同じ魔波でないと共鳴しなくなるの。」

「と、いうことは?」

「共鳴すれば簡単に魔法がかかるし、
 共鳴しなければ魔法はかかりにくいわね。
 共鳴しなくても、無理やり魔法をかけられればいいんだけど、
 それは、よほど強い魔波を使えないと出来ないし、高度なテクニックも必要なの。」

「そうなんですか…」

要するに、魔法をかけた本人は簡単に魔法をかけ直すことが出来るが、
他人がそれをやろうとすると、非常に強い魔力が必要になるということだ。

魔波のパターンが焼き付く『パターン焼け』という現象。
園子さんの話によれば、かける魔法の種類が違えばパターン焼けしていないから大丈夫
らしいが、まなちゃんが僕にかけた縮小魔法と同じ種類の『ものの大きさを変える魔法』
は、今の園子さんの魔力では、かけ直しは無理だということだった。
パターン焼けは時間の経過とともに自然に消えるので、それを待つという手段もあるが、
それには何年もかかる。

ちなみに、パターン焼けという現象が存在するため、
魔法を完全に『解く』という行為は、強力な魔法使いでも困難らしい。
大半の場合は、魔法の『かけ直し』で対処することになる。
また、パターン焼けするのは『動物』だけらしい。

魔波が、どんな原理で魔法としての現象を起こすのかは、まだ不明だそうだ。
魔法使いは世を忍んで暮らす身である。従って、魔法を研究する人も大変少ないのだ。

「ということは、僕が元の大きさに戻るには、
 まなちゃんの魔法が上達するのを待つか、
 誰か、魔力が強い人を探すしかないんですね。」

「そうなるわね。」

「ああ、やっぱり僕は、もうしばらくコビトのままで暮らすしかないのか。」

「あと、ひとつ言い忘れてたわ。
 あたりまえのことだけど、魔波は精神エネルギーの一種だから、
 魔法を使う者が本当に心の底から望まなければ魔波は出ないのよ。」

「つまり、まなちゃんが、
 本気で僕を大きくしたいと思わなければ魔法は効かないってことですか。」

「そのとおりよ。
 でも、あの娘ったら、小さな貴方を気に入ってるみたいだから、難しいわねぇ。」

「はぁ。前途多難だなぁ。
 園子さんの魔力が今でも強ければよかったんだけどな。
 そうだ。園子さんは、どうして魔力が減っちゃったんですか?」

「それは…」

園子さんはフイっと、僕から目をそらしてしまった。
もしかすると、マズい事を尋ねてしまったのだろうか。

「それは、パートナーがね、居なくなったからよ。」

「パートナーって? あ、もしかしてご主人…」

「そう。」

「行方不明になってしまわれたそうですね。」

「……………」

園子さんは再び黙り込んだ。
今度は長い沈黙だった。重い空気に押しつぶされそうだった。

(何か言わなくっちゃ…)

僕がそう思ったとき、再び園子さんが口を開いた。

「あの人は、本当は行方不明というわけではないの。じつは、今でもこの家に居るわ。」

「えっ!? どこにいらっしゃるんですか?」

「会ってみたいの?」

「あ、いや、どうしてもというわけでは…」

「これよ。」

僕の前にゴトリと固い音を立てて何かが置かれた。
長さ二十数センチ、太さ数センチ、男性の象徴を模った独特の形、
根元には電気コードがついていて、その先にリモコン。
あの夜、園子さんが使っていたヤツとは、また別の…

「ばっ、バイブレータ?」

「そう。これが彼よ。」

「彼って、人間じゃないんですか?」

「いいえ。人間よ。
 そうね『人間だった』と言った方が正しいかしら。」

こんな只の機械が人間で彼だと言われても、普通は信じられないだろうが、
現に魔法が存在するのだ。無闇に否定はできない。

「まっ、まさか、園子さんが魔法で…」

「そうじゃないわ。
 彼は、私と彼が出会った時に、もう、その姿だった。」

「どういうことですか?」

「私も、始めは、彼が人間だとは思わなかったわ。
 お店で一目見て、不思議にすごく気に入って、
 普通のバイブレータだと思って買ったの。
 何日かたってから気付いたの。彼が言葉を話していることにね。
 偶然、私が魔女で、テレパシーが使えたから、わかったのよ。
 それから、私と彼は仲良くなって、自然の成り行きで、毎晩毎晩毎晩してたら、
 彼は、どうやったのか、バイブレータのくせに根性で精液を出していたらしくて…」

「と、いうことは、もしかして。」

「妊娠しちゃったのよねぇ。
 それが、私の一人娘になったの。
 だから、彼とは『出来ちゃった結婚』というわけね。」

「なんていうか、まなちゃんの出生が、そんな可哀そうな…」

「まさか、あの娘に『あなたの父親はコレよ』ってバイブを見せるわけにも
 いかないし、仕方ないから、行方不明ってことにしてあるわけよ。
 だけど、結婚は正式にしてるわよ。結婚届けだって出したし。
 彼だって、バイブになる前は立派な人間だったんだから、ちゃんと戸籍もあるし。」

「それはわかりましたが、
 まなちゃんのお父さんは、そうしてそこに居るわけでしょう。
 それで、どうしてパートナーが居なくなったことになるんですか?」

「それは、あの人があんな姿になった理由から説明する必要があるわね。」

そして、園子さんは遠くを見る眼をしながら話し始めた。
その昔、まなちゃんのお父さんが語ったという出来事を。

「あの人は…
 大きな野心を持っていたわ。

「野心、ですか。」

「不老不死。
 永遠に生きるための研究をしていたの。」

「それは、なんだか、すごいですね。」

「ある日、彼は、風の噂を聞いた。
 午前零時地球発アンドロメダ行きのアナクロな外観をした
 銀河超特急に乗れば機械の体をタダでくれる星に行けると。」

「は?」

「機械の体をタダでくれる星は確かに存在した。
 だけど、その星に着いて初めてわかった。
 本人が機械の体の種類を自由に選べるわけではない。
 そして、彼は無理やりバイブレータの体に…
 心を持った機械、生きたオモチャにされてしまった。
 それから、彼は商品として地球に逆輸入されて、私と出会った。」

「あのー 園子さん?」

「だけど、故障しちゃったのよ。
 ちょっと激しく使っただけなのに。
 もう、動かなくなっちゃったのよ。
 あの人と話が出来なくなっちゃったのよ。
 私の大事なパートナーが居なくなっちゃったのよ。」

「園子さーん。ちょっと。」

「あれが気に入ってたのよ。なのに、
 輸入品だから修理の手続きは面倒だとか、
 保証期間が過ぎてるから修理は有料だとか、
 古くてもう交換部品が無いので修理費が高くなるから
 別のを買った方がいいって言うのよ。あれでなきゃダメなのに!」

「園子さんっ! それは、本当に本当ですか?」

「あら。もちろん、ウソよ。」

どっと一気に疲れてきた。
園子さんが、さっき長い間沈黙していたのは、こんな冗談を考えていたからだったのか。
怖い人かと思っていたが、意外にお茶目な性格なのかもしれないけど。
しかし、これは、ちょっと酷い。

「いったい、どのあたりから作り話なんですか?」

「んー。バイブレータのとこね。」

「やっぱり。
 で、本当のところはどうなんですか?」

「どうしても聞きたい?」

僕は園子さんの顔を見て、ギクッとなった。同時に寒気もした。
先ほどまでの冗談を飛ばしていた時とは明らかに変わっていた。

「これは、まなには内緒のことなんだけど。
 あなた、秘密守れる? もし、あの娘に秘密を漏らしたらその時は…」

僕は、園子さんの恐ろしい表情に、ちびりそうになりながら、何度も首を縦に振る。

「そう… それじゃあ話すけど…」

園子さんはゆっくりと話し始めた。

「あの娘が生まれるずっと前、
 あの娘の父親、つまり旦那と私との関係は、
 ちょうど今の、貴方とあの娘との関係と同じだったのよ。」

「と…いうと…」

「私は、前から気に入っていた男を縮めて小人にして持って帰ったの。」

「はあ…」

「色々な事があったわ。あなたたちと同じようにね。楽しかったわ…」

園子さんはブランデーをあおりながら、話し続ける。

「最初は、あの人、嫌がってたけど、そのうち愛が芽生えて、
 私たちは、もう毎日愛しまくりのアツアツカップルになっていったの。
 あの人を潰さないように、私はそりゃあもう気をつけてエッチしたわ。」

(かわいそうな旦那さん…
 たぶん、一方的に苛められていただけだと思う…)

僕は自分の体験とダブらせて、心から同情した。
もちろん口には出せない。

「相手がコビトだから、生でいくらエッチしても、妊娠することはなかったわ。」

「あれ?
 ちょっと待ってください。
 だとしたら、まなちゃんはどうして生まれたんですか?」

「それは、ちょっとワケ有りなんだけど。
 まあいいわ。少しだけ話してあげる。
 私は、あの人と結婚したかったんだけど、あの人は嫌がっててね、
 仕方ないから、あの人が寝ている間に魔法で、ああして、こうして、
 大当たりして、めでたく赤ちゃんを授かって、あの人に結婚を迫ったのよ。」

「はあ…そうですか。」

二人が『出来ちゃった結婚』したのは本当だったようだ。

「だけど、あの日、あの人は突然いなくなってしまったの。」

(まさか、エッチの途中でアソコの中へ行ったきり戻って来なかった…とか?)

他人ごとではない。この僕も、いつそんな目に遭うかもしれない。

「まなには行方不明って言ってあるんだけど、本当は…」

「本当は?」

僕は息をするのも忘れて、園子さんの言葉に集中する。

「それは…ヒ・ミ・ツ!」

「えーっ。 ここまで来てそれは無いでしょう。」

「ごめんなさいね。
 まだ、あの娘にも、貴方にも話せないの。
 その時が来たら、ちゃんと話してあげるから。」

「はあ。まあ、いいですけど。」

「そのことは、もう置いといて、ほら、飲みましょ。
 康博さん。あなた、機械いじりが得意なんですって?」

「ええ、そこそこ。」

「それなら、さっきのバイブレータ、直せる?」

「え? さっきのは嘘だったんじゃ…」

「故障してるのと、お気に入りだったのは本当よ。」

「それじゃあ、今度、見てみますよ。」

「ありがとう。お願いね。
 ところで・・・康博さん。あの娘のこと、まなのこと、どう思う?」

「どうって…」

正直に話して良いものだろうか。
園子さんは別に僕を敵視しているわけでもないし、
これから先、助けてもらわなければならないことも多そうだし、
ここは、ありのままを話しておいた方が良いかもしれない。

「そうですね。
 好きですよ。
 そりゃ、初めの頃は、僕をこんな姿にして迷惑だったけど、
 今まで、まなちゃんの良いところも悪いところもたくさん見てきて、
 それを全部ひっくるめて考えたら、やっぱり素敵な娘だと思いますね。」

冷静に考えれば、むしろ悪いところの方が目立つのだが、
それでもやっぱり、まなちゃんが好きだ。
こういうのを、情が移ると言うのだろうか。

「そう。よかった。
 貴方には色々と不便なことばかりだと思うけど、
 あの娘を見ていてほしいの。
 じつはね、こんなことを言うのは気が引けるんだけど、
 あの娘を一人前の魔女にするためには、貴方がどうしても必要なの。」

「僕が…ですか?」

まなちゃんが一人前になるために、僕が必要というのは、どういうことだろうか。
映画などで見る、黒魔術のシーンが脳裏に浮かんできた。

「それって、あの… 僕を生贄にするとかじゃないでしょうね?」

「ふふっ。まさか!
 そうじゃなくて、
 あの娘の『パートナー』として、あの娘の側に居てくれるだけでいいの。」

「パートナー?」

「そう。
 いつも魔女と一緒に居て、魔女を色々な面でサポートするのがパートナー。」

「使い魔みたいなものですか? 黒猫みたいな…」

「少し違うわ。 魔女とパートナーは対等の関係なの。」

『対等の関係』というところからして、今の僕の状況と照らし合わせれば、
パートナーの仕事は非常に困難なものと推察される。

「だけど、まなちゃんの魔法修行のサポートって、どうすれば…」

「べつに、特別な事をする必要はないのよ。
 魔力は、パートナーと一緒に居れば、それだけで自然に増えてくる。
 そして、貴方と一緒に何かするたびに、それが魔法と直接関係なくても、
 経験になって、新しい魔法が使えるかもしれない『きっかけ』にもなる。」

「僕が、その、まなちゃんのパートナーだというんですか。」

「そう。
 あの娘は貴方をパートナーに選んだ。
 それは、偶然ではなく、必然なの。
 あの娘自身はその事に気付いてないでしょうけどね。」

「何かの間違いってことはないですか。
 僕みたいな普通の人間が魔女のパートナーだなんて考えにくいですよ。」

「それは、絶対に間違いないわ。
 貴方、あの娘と出会ってから、不思議なことが出来るようになったでしょ?」

「ああっ! そう言われてみれば、変身能力が…」

「それが証拠よ。
 あの娘の魔波に同調しているのよ。
 パートナー以外には在り得ない現象だわ。」

「でも、僕なんかで本当に大丈夫なのかな。」

「魔女のパートナー選びのチャンスは一生に一度だけ。
 やり直しは利かないの。貴方しか居ないの。
 それに、あの娘が一人前の魔女になれば、
 あの人を、あの娘の父親を助けられるかもしれないの。」

「まなちゃんのお父さんが?
 助けるって、だったら急がなくちゃいけないでしょう?
 まなちゃんの魔法が上手くなるまで待ってていいんですか?」

「それは大丈夫。
 あの人は苦しんでいるわけではない。
 ただ、生命活動を一時停止しているだけ。
 だから、時間はかかってもかまわないの。
 ごめんなさい。これ以上詳しいことは話せないわ。」

なんだか、大変なことになってきた。
僕ひとりの問題ならまだしも、まなちゃんのお父さんの運命までかかっているとは、
なんと責任が重大であることか。本当に僕に務まるのか。
僕が難しい顔をしているのを見て、園子さんは、今までに無いほど真剣な表情で
頭を下げる。

「貴方を巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。
 だけど、無理を承知でお願いします。
 康博さん、どうかあの娘と私の力になってください。」

僕には、まったく自信がなかった。
しかし、まなちゃんの魔法が上達しなければ、僕も一生コビトのままだ。
どの道、やるしかないのだ。

「んーむ。わかりました。
 まなちゃんのパートナー、全力で務めさせていただきます。」

「ありがとう!
 そう言ってくれると信じてたわ。
 それと、この事は、あの娘には内緒にしておいてね。」

「まなちゃんに? 秘密にしとかなくちゃダメなんですか?」

「どうしてもってわけじゃないんだけどね。
 魔法のことで、あの娘が私に頼るようになっては困るし、
 何でも自分でやることが上達の鍵だから。
 あの娘が何かに行き詰ってたら、それとなくヒントをあげるくらいにしときたいの。」

「そうですね。善処できるように努力します。」

「よかった。
 今夜はお祝い、ううん、壮行会かしらね?
 さ。康博さん。飲んで! 飲んで! かんぱ〜い!」

∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽

どれくらい飲み続けただろうか。
園子さんは、僕を部屋に連れて来た時から、かなりハイペースで飲んでいたので、
すっかり酔っていた。

「園子さん! もう止した方がいいですよ。」

「なによー まだまだぁー あっはっはぁ!」

「そんなに飲んじゃ、明日、二日酔いで大変ですよ!」

「なにをー ちびっこいのが生意気言ってる〜」

「あちゃー。なんだか、たちが悪そうだぞ。
 こんなになるって知ってたら、もっと早く止めてたのに。」

「うるしゃ〜い! コビトなんか、こうしてやる〜」

「うわっ! 園子さん。何するんですか!」

僕は、園子さんの指で一気に摘み上げられた、
そのまま、園子さんの口へ…

「うふん。美味しそう。」

「冗談でしょ!?」

酔っ払いの戯れか本気なのかわからないが、万が一にも本気だったら大変だ。
幸い、園子さんの指がアルコールで痺れていたためか、
僕が少し体をよじっただけでスルッと逃げ出すことが出来た。
だが、園子さんの手が、すかさず僕に向かって追撃してくる。
こんど捕まったらヤバいかもしれない。
こんな危険な場所からは、早々に退散すべきである。

(まなちゃんのお父さんも、こんな風にして食べられちゃったんじゃないだろうな。)

頭の中に湧き出してくるコワい想像を振り払い、
ついでに園子さんの手もひょいひょい避けながら、僕は出入り口へと急いだ。
ドアはピッタリと閉じられている。
もちろん僕の力では開かないので、ドアの下の隙間から脱出を試みる。
ところが、この部屋のドアは気密性が高めの構造で、隙間が狭いことに気付いた。
今の僕の大きさでも通り抜けられそうにない。
かといって、僕自身の大きさを変えるためには、まなちゃんの力が必要だ。

こういう時は慌てず騒がず、あれに変身するのが便利である。
素早く動き回れて、狭い隙間もスイスイ通れるあの生き物。

『しびびっ』

僕はドアの下の隙間を滑らかにくぐり抜けて廊下に転がり出た。
走りながら、園子さんが追って来るのではないかと冷や冷やした。
もっとも、今の僕の姿を見たら、園子さんの食欲も無くなるに違いないが。

(いやいや。それでも油断は出来ないぞ。
 園子さんの嗜好を考えたら、あるいは、ひょっとするかも…)

∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽

結果として、ひょっとする事態は起こらず、
僕は、まなちゃんの部屋へ無事に戻ることができた。
まなちゃんは相変わらずテーブルで眠ったままだった。

(さてと。工作を仕上げちゃわなきゃな。
 その前に、まなちゃんを起こすか。ちゃんとベッドで寝ないと夏カゼひくぞ。)

《まなちゃん! まなちゃん!! 起きろってば!!!》

まなちゃんは、普段は、一度寝ると、なかなか起きないが、
今日は不自然な格好で寝ているので、テレパシーで呼びかければ起きるかもしれない。

「うう〜ん…」

思った通り、まなちゃんが薄目を開けた。

《まなちゃん。ちゃんとベッドで寝ろよ! カゼひいちゃうぞ!!》

僕は更にテレパシーで呼びかけた。

まなちゃんのトロンとした瞳が僕を見つめている。

(こりゃ、寝ぼけてるかな?)

その瞬間。まなちゃんは急に立ち上がった。
床の上に居る僕の方に向かって、よたよた歩いてくる。

《ちょっと、まなちゃん?》

まなちゃんは、僕の上を跨いだ格好で立ち止まった。
はるか上空、白のギャザースカートの奥に、チューリップ模様のぱんつが確認できる。
白地にピンクと黄色の花が咲き乱れている。
そして…
まなちゃんの右足が高く上がった。

「この! ゴキブリっ! 死んじゃえ!!」

標的に向かって狙いを定め、素早く足を下ろす。

(しまった! 元の姿に戻るの、忘れてた!!)

僕は、園子さんの部屋から逃げ出した時の姿のままだったのだ。
まなちゃんの踏み潰しを間一髪で逃れた僕は、慌てて元の姿に戻る。

『しびびっ』

しかし、それでも、まなちゃんの攻撃は収まらない。
寝ぼけている上に、気が動転しているらしい。
まなちゃんは、巨大な足裏で僕を仕留めようと執拗に追いまわす。

「おーい! 僕だよう!! まなちゃーん!!」

僕は、まなちゃんの踏みつけ攻撃を必死に避けながら、同じく必死に叫ぶ。

「こらーっ!! 気付けよぉー!!! 頼むから…」

はたして僕は、園子さんの頼みを最後まで遂行する事が出来るのだろうか。
これから先どうなるか、その道のりは想像もつかない。
長い長い、そして危険な生活の再スタートだった。

 


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