魔女っ子(予定)少女 まなちゃん
5.日曜日
「やっくん、おっはよう!」
翌朝、まなちゃんは目を覚ますと一番に、
自分が穿いているぱんつの中をのぞき込んだ。
「あれ? やっくん、いない… どこ行ったんだろ? 外に出ちゃったのかな?」
まなちゃんは布団をめくったり、ベッドの下をのぞいたりしてみたが見つからない。
「やっくん、どこぉ?」
床の上で四つん這いになり、慎重に探してみたが、やはり見つからない。
「ん、もう! どこへ行っちゃったんだろう?
その辺をうろちょろしてると、うっかり踏み潰しちゃうかもしれないじゃない!」
と、その時、まなちゃんは自分の足の下で『ぷちっ』と何かが潰れるのを感じた。
「!?…」
少しの沈黙の後、まなちゃんが金切り声を上げた。
「い…いやあああーっ!!!」
その声は、隣近所にも響きわたるほど大きかった。
「やっくん… つぶしちゃった…」
まなちゃんは、恐る恐る足をどけた。そして薄目を開けてみた。
ぐちゃぐちゃの悲惨な状態で床に貼り付いているであろうコビトのなれの果てを…
「………」
しかし、それはコビトではなかった。
よく見ると、それは床にこぼれ落ちていたお菓子だった。
「…は〜っ! 驚いた…」
まなちゃんは、ほっとして、その場に座り込んだ。
その時、騒ぎを聞きつけた園子さんが子供部屋へ飛び込んできた。
「まなっ! どうしたのっ!!」
「あ、お母さん! …な、何でもないのよ。ちょっと怖い夢を見ただけ…」
とっさにそう言ってごまかした。
まさか『部屋へ連れ込んだ男を殺しちゃったと思った』とは言えない。
「まぁ… 人騒がせねぇ。
そうそう、もうすぐ朝ごはんが出来るから、着替えてらっしゃい。」
「はあい!」
園子さんはキッチンへと戻っていった。
「なんとかごまかせた…
それにしても、やっくん、どこへ行っちゃったんだろ?
逃げちゃったのかな? 外へ出たらもっと危ないのに…」
まなちゃんがそんなことを考えているとき、
ぱんつの中がもぞもぞするのを感じた。
さきほどの騒ぎで眠りが浅くなった僕が動いたからだ。
まなちゃんは、あらためてぱんつの中をのぞいてみた。
中をよく見てみると、変なものがある。
ぱんつの前部分の内側にぶら下がっているゴミのようなものだ。
起きてすぐにぱんつの中をのぞいた時は、まだ寝ぼけ眼だったので、
ぱんつと同じ色のガーゼに気付かなかったのだ。
「やだ! なに?これ!」
まなちゃんは、そのゴミをむしり取って、くずかごへ捨てようとした。
…が、目の前にぶら下げてよく見ると、中に何かが入っているのに気付いた。
「ああっ! やっくん… 何でこんな所に居るのよ!
まあ…あきれた。よく寝てるわ。
ちょっと、やっくん! 起きてよ! やっくんったら!」
まなちゃんは僕をガーゼから引きずり出して手のひらの上に乗せ、
小指の先でつんつんした。
言い忘れていたが、僕も一度寝るとなかなか起きないタイプなのだ。
「うにゃ?… ふああ… ん、おはよう…」
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僕は、まなちゃんにゆうべの出来事を話して聞かせた。
「う〜ん、そうだったの… ごめんなさーい。
あたしって、そんなに寝相が悪かったのかぁ…」
着替えをしながら、まなちゃんは言った。
「でも、あたし、ゆうべはいい夢見たのよ。どんな夢だったかは覚えてないけど、
なんだか、夢の中ですっごく気持ちのいいことをしてたような気がするのよね。」
僕にはその原因の心当たりがあったが、これは言わない方がいいだろう。
あの時、まなちゃんは、無意識に指で僕を割れ目の間に押し込んだが、
膣の中までは入っていなかったので、まなちゃんの処女膜は健在のはずだ。
そもそも、身長5センチしかない小さな僕が入ったとしても、
処女膜は傷つかないだろうが…
とにかく、あの出来事は無かったことにしてしまおう。
そこに、園子さんの声が聞こえてきた。
「まな! 何してるの? 朝御飯が冷めちゃうわよ!」
「はあ〜い! 今行く!」
「やっくん、後で朝御飯持ってきてあげるから待っててね☆」
そう言うと、まなちゃんは僕を机の上に残し、部屋を出ていった。
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20分ほどして、まなちゃんは戻ってきた。
園子さんは今日も勤めがあるとかで、もう家には居ないという。
僕は、まなちゃんが運んできてくれた朝御飯を食べながら言った。
「今日は、何をするんだい?(神様! 死んでも命がありますように…)」
やっぱり、それがいちばん気になる。
「そおねぇ、ごはんの後かたづけが済んだら勉強しなきゃ。
昨日たくさん宿題が出たのよ。あたし算数が苦手だから時間がかかるのよ。」
「そう、それじゃ僕は…」
(眠いから寝直すよ。)と言いかけた僕の言葉をさえぎって、まなちゃんが続けた。
「当然、勉強、教えてくれるよねぇ?」
「………はい…」
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僕はそれからお昼まで、まなちゃんの家庭教師となった。
教師と言っても、僕の立場は弱い。
要するに、まなちゃんの宿題をやらされているだけである。
今日が夏休みの最終日とかでなくて、本当に良かった。
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やっと宿題も完了し、ちょっと休憩すると、もうお昼の準備をする時間だった。
お昼ごはんを済ませ、後かたづけをしながらまなちゃんが提案した。
「今日はお天気もいいし、お散歩に行きましょうよ。
川土手の桜が咲き始めてるかもしれないわ。」
(子供のくせに、ずいぶん落ち着いたことするんだな。)
「せっかくの日曜だろ? お友達と遊んだりしないの?」
「たまにはね… でも、あんまり楽しくないんだもん…」
どうやら、それほど親しい友達はいないらしい。
まなちゃんは、一人遊びするタイプなのだろうか。
「でも昨日、公園でやっくんに会ったとき、『この人と一緒に居たい』って思ったの。
きっと、運命の出逢いって、このことなのよ☆」
(違うと思うぞ…)
うるうる遠い目をしている、まなちゃんを見て、僕は思ったが、
口からは曖昧な言葉が出てしまう。
「そ、そうかもね。ははは… じゃ、お散歩、行こうか?」
「うん☆」
僕はまた、まなちゃんのポケットの中に入れられた。
まなちゃんが歩くと相変わらずひどく揺れたが、
少しは慣れたのか昨日ほど苦しくはなかった。
まなちゃんと僕は、たわいもないおしゃべりをしながら川土手の道を歩いた。
その後、商店街の方へ行き、ウインドウ・ショッピングを楽しんだ。
(主に楽しんだのは、まなちゃんだけだったのだが…)
夕方近くなった頃、僕は切り出した。
「ねえ、まなちゃん。そろそろ、僕を元に戻してくれないかな?
日が暮れるまでに出発したいんだよ。」
「……………」
一瞬、まなちゃんの表情が曇った。
しかし、約束である。
まなちゃんは決心したように言った。
「うん。さみしいけど、しかたないね。
いつまでも小さいままじゃ、やっくん、たいへんだよね。」
ありがたいことに、まなちゃんは素直に同意してくれた。
まなちゃんは僕を昨日の林へと連れていった。
「ねえ、また会いに来てくれる?」
「ああ、いつかね!」
まなちゃんの問いかけに、僕はいいかげんな返事をした。
悪いけど、もう縮められるのはごめんだ。
ロリーの僕にとって、まなちゃんは大変魅力的な女の子だが、
あくまで普通サイズであったらの話だ。
昨日からの約1日間、どれだけ怖い思いをしたか…
まなちゃんは僕の返事に少し不満そうだったが、
やがて例の呪文を唱え始めた。
僕の体が膨張し始めた。
(おおっ! やっと元に戻れる!)
ところが、僕のサイズが10センチほどになると、体の膨張は止まってしまった。
「どうしたんだい? 早く戻してよ。」
僕が催促するが、まなちゃんは返事をしてくれなかった。
「まなちゃん?」
もう一度呼びかけると、まなちゃんは小さな声で言った。
「…いの…」
「え?聞こえないよ?」
「できないの! 何度やってもだめなの!」
(なに〜っ?)
僕は言葉を失った。
このままでは、僕は、一生コビトとして生きていかなければならない。
「どうしよう… やっくん…」
まなちゃんは泣きそうな顔をしている。
「じ、呪文を間違えたんじゃないのかい?」
「そうかしら?…」
そう言うと、まなちゃんはそばにあった木に向かって呪文を唱えはじめた。
その木は5メートルほどあったが、みるみるうちに縮んで10センチほどになった。
更に、まなちゃんが別の呪文を唱えると、その木はずんずん大きくなり、
元の大きさへと戻った。
「呪文は間違ってないのよ。もう一度やってみる…」
まなちゃんは、再び僕の方へ向かって呪文を唱えた。
しかし、僕の体はどうしても10センチより大きくならない。
さっき木を元に戻した時と同じ呪文なので、間違っているとは僕にも思えない。
試しに小さくなる呪文をかけてもらったら、僕の体は更に縮んで、
蟻ほどの大きさになってしまった。あわてて10センチまで戻してもらう。
石ころ、ベンチ、池の鯉、スズメ。いろいろ試してみて、ある結論が得られた。
無生物や植物は自由に大きさを変えることが出来るのに対して、
動物は、一度小さくすると元の大きさまで戻らないようなのだ。
僕が着ている服は無生物だが、僕と一緒だと僕に合わせて大きさが変わり、
服だけ元の大きさに戻るようなことはないようだ。
(スズメや鯉には気の毒なことをしたなあ…)
などと他人事のように考えている場合ではない。
自分がまさにその取り返しのつかない立場に立たされているのだ。
絶望的だった。
「やっくん、どうしよう… くすん…くすん…」
まなちゃんは、しゃがみこんで、しゃくり上げ始めた。
(おいおい、泣きたいのはこっちだよ!)
僕はしばらく考えた。
まなちゃんが、この魔法らしき物を使うようになったのはごく最近のことだそうだ。
とすれば、動物の大きさを元に戻せないのは、
まなちゃんの魔法の腕が未熟なせいだという可能性がある。
このまま、まなちゃんと別れても、小人のままで生きてゆけるとは思えないし、
いっそのこと、まなちゃんの所へやっかいになって、
まなちゃんの魔法が上達するのを待つのが賢明かも知れない。
どうせ、しばらくの間は家へ帰らず、風来坊の旅を続けるつもりだったのだ。
「まなちゃん。泣かないでよ。」
まなちゃんは、僕の前で屈み込んで、顔を手で覆って、嗚咽を漏らしている。
「くすん…でも、…やっくん…、…怒ってる…」
「え? ああ…それは…まあ…その…そう…いや、怒っちゃいないよ。
元に戻れなかったのは悲しいけど、こうなっちゃったものは仕方がないよ。」
「…くすん…」
「それより、僕はこの大きさのままではどこへも行けないんだよ。」
僕は冷静を装って続けた。
「それでね、思ったんだけど、当分の間、まなちゃんの所へ住まわせてほしいんだ。」
「!?…」
まなちゃんが、顔を覆っていた手をずらして僕の方を見た。
両手を軽く握って、口の横に当てている。
(こりゃ、典型的なポーズだな…)
「今はさぁ、魔法を覚えたてでうまく使えないだけだよ。
なあに、そのうち必ず出来るようになるさ。ね?どうだい?」
これは僕自身へ言い聞かせているとも言える。
「え?それでいいの? また、うちへ来てくれるの? これからもずっと???」
まなちゃんは泣きやんで、ぶりっこポーズのまま、そう聞き返してきた。
「ああ、よろしくたのむよ。まなちゃん。」
僕は答えた。
ちょっと『これからもずっと』ってのが心配だが…