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魔女っ子(予定)少女 まなちゃん

 

 (番外)風邪の特効薬

 

 

「はぁーーーっくしゅん!!!」

 

これは、まなちゃんのくしゃみだ。

 

「ひえぇ〜〜〜っ………」

 

そしてこれは、吹き飛ばされて空中を舞う僕の悲鳴だ。

 

「はっくしゅん! はくしゅ! くしゅん!」

 

まなちゃんはくしゃみを連発する。

 

「くふっ。誰か、あたしの噂をしてるのかな? モテる女はつらいわ〜☆」

 

「ううー痛てて…。

 何言ってるんだよ、まなちゃん。それって風邪ひきはじめてるんじゃないの?」

 

僕は、飛ばされて床に激突し、その痛みも抜けきらない腰をさすりながら指摘した。

 

「えー? そうかなぁ…。『じゅる』…」

 

「ほら、鼻水が出てるじゃないか。」

 

「あ、ほんとだ。ティッシュ、ティッシュ…『ぢぃ〜〜〜ん!』…」

 

「やれやれ。夕べお風呂で遊び過ぎるからだよ。ちゃんと暖ったまらなかったんだろ?」

 

「そんなに遊んでないもん。ちょっとだけだもん。」

 

「おおっ!? それに1時間も付き合わされた僕を前にしてそういうことを言うか?」

 

「むうっ! あたしと一緒に遊んだのに、やっくんだけ風邪ひかないなんて、ずるい〜!」

 

「そりゃあ、僕はとぉっても暖ったかい所に居たからねー!

 おまけに息ができなくて狭くて臭くて身体中べとべとになって、

 その上、潰されないように必死だったから風邪ひく暇なんてなかったさ。」

 

「……………」

 

「まなちゃんったら、あの間中、ずっとバスマットの上に居たんだろう?

 この真冬の寒い時期にあんな事をしてたら、風邪ひくのもあたりまえだよ。」

(よしっ! これを口実に、あの遊びをやめさせてやるぞ!)

 

「ううっ…だってぇ…」

 

「だってじゃないっての!

 まなちゃん。もうあの遊びは、やめた方がいいんじゃないかなー。」

 

「えぇー…、でもぉ…」

 

「風邪をひいたら、つらいよー!

 お腹が痛くなるし、胸が気持ち悪くなるしー」

 

「それは、そうだけど…」

 

「それに、つまんないぞー!

 御飯は美味しくなくなるし、遊びには行けないしー」

 

「んー…わかったわよ…」

 

「おお! わかってくれた!?」

 

「これからは、やっくんをお尻に入れたらすぐにお湯につかることにする〜☆」

 

(わぁー! 作戦大失敗〜…)

 

「と、とにかく今日は薬でも飲んで、それから遊ばないで寝てた方がいいよ。

 今年の風邪はたちが悪いって聞いたからね。こじらせたら1週間くらい苦しむとか。」

 

「ええー! せっかくの日曜日なのに寝てるなんてつまんないよー!! 『ぐしゅっ』…」

 

「あ〜あ。ハナ垂らして何言ってるんだよ。

 寝てるのが退屈だったら、一緒に居て話相手にでもなってあげるから。ほれっ!」

 

というわけで、まなちゃんを何とか説得し(めずらしく素直に言うことを聞いてくれた)

パジャマに着替えさせて寝かせることに成功したのだった。

 

∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽

 

「えーっと、暖房を強めにっと、それから加湿機も使うっと。」

 

風邪をひいたときは、暖かくすることはもちろん、

空気の乾燥は絶対に避けなければならない。

 

「やっくん! やっくん!」

 

「ん? なんだい?」

 

「薬! 風邪薬、あたし、まだ飲んでない。」

 

「え? じゃあ、早く飲まなきゃ。」

 

「うん。飲まなきゃね。」

 

「………飲みなよ。早く。」

 

「やっくん。取ってきてよ。」

 

「えぇー。まなちゃん、自分で取ってきた方が早いんじゃ…」

 

「あたし、病人だよ?」

 

「病人ったって、たかが鼻風邪…」

 

「こじらすと恐いんだってねー…」

 

「そりゃあ、悪化すればね。」

 

「おとなしく寝てろって言ったの、やっくんだよ!」

 

「………はいはい。わかったよ。待ってろぉ………………………………………

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 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………はあっ………はあっ…取ってきた…ぞ…」

 

「ありがと。やっくん。」

 

「早く…はあっ…飲んでっ…寝ろっ……」

 

「うん。ええっと。薬飲むには、お水が要るよね。やっくん。」

 

「……………」

 

「お水はどこかな? やっくん。」

 

「…………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………… 

 …………………………………………………………………み……水…だ…ぞ…」

 

「あらら、これっぽっち?」

 

「じ…15…往復も…したんだぞ! 50ccもあれば…十分だろっ!」

 

「まあ、仕方ないか。甘い薬だしね。

 それじゃ、やっくん。『あ〜ん』………」

 

「な? なんだよ? まなちゃん。大口開けて?」

 

「飲ませて。薬。」

 

「だめ!」

 

「どうしてよ? 口の中に入れてくれればいいのよ?」

 

「その手には乗らないよ! 薬と一緒に飲まれたくはないからねー。

 この前だって『歯が痛いよ〜。ちょっと見て〜。』とか言って

 僕を口の中へ入らせて、そのまま飲み込んじゃっただろ。

 あの時僕は何が起こったのかわからなくて、変身するのが遅れて、

 危うく消化されちゃうところだったんだからな。あ〜…思い出したくない!」

 

「あの時は、ちょっと間違えちゃっただけよ。えへ☆ 今度は大丈夫。」

 

「それでも、だめ!」

 

「ぶー。やっくんのケチー!

 いいもん。自分で飲むもん。『ぱくっ。ごくり。』」

 

「よしよし。それでいいんだよ。

 そうだ、ちょっと熱を計っておこうか。

 まなちゃん、体温計はどこにしまってあるんだっけ?」

 

「あたし知らなーい。」

 

「なんだ、僕も知らないんだよな。

 ま、いっか。たいして熱も無いだろうし…

 …って、まなちゃん。僕をつまみ上げてどうする気だよ?」

 

『あ〜ん。』

 

「ああっ! そんな大きな口、開けて。」

 

『ぱくり☆』

 

「ぎょえ〜っ!!! だめって言ってるのに〜!」

 

『あむっ、むぐむぐ、ぺちょくちょ…』

 

(ああ、僕は、また一晩の旅行の末に雲固になるのか…)

 

『ぺっ…』

 

(あ…あれ? 吐き出された? もしかして、飲み込まれなかったのか?)

 

「ふぅ〜。やっくん。どうだった?」

 

「まなちゃん。なにすんだよ! いきなり口の中へ投げ込むなんて。」

 

「うふふ。ごめんごめん。で、どうだったのよ?」

 

「どうって? ええっと…真っ暗で、生暖かくて、ベトベトで…」

 

「そうじゃなくってぇ、体温! あたしの体温はどうだったの?」

 

「へ? まなちゃんの体温?」

 

「体温はお口の中で計るのが正確なんでしょ?」

 

「それはそうだけど…

 え? じゃあ体温を診させようとして僕を口に入れたのかい?」

 

「うん☆」

 

「あきれたー。」

(でも、まなちゃん、直腸温のことは知らなかったらしいな。よかったよかった。)

 

「それにしても、まなちゃん。僕を口の中に入れても体温はわからないよ。」

 

「そんなことないでしょ? おでこをくっつけて熱を診たりするじゃないのよ?」

 

「あれは、ほら、身体の同じ部分をくっつけて温度の差を感じるんだよ。

 さっきみたいに全身を口の中に含まれても体温が高いのか低いのかわからないよ。」

 

「まあ、いいから、いいから。

 やっくんがあたしの口の中でどう感じたのかを言ってみてよ。」

 

「えー…、そうだなー…

 う〜ん。そういえば、いつもよりちょっと熱かったような…」

 

「熱いって? 何度くらいだったの?」

 

「38度よりはちょっと低めだったような… 37度6分くらいかな?」

 

「ふーん。どれどれ…『あむっ』…」

 

「ちょっと、まなちゃん。それ…」

 

「んふふ。体温計。」

 

「さっき、置き場所、知らないって言ってたのに〜」

 

「普段の置き場所は知らないけど、たまたまここにあったのよ。」

 

「ひでー!!」

 

『ピピッ・ピピッ・ピピッ』

 

「あ、計れたみたい。んーっと、37.7度だって。

 やっくん。すごいじゃない! ほとんど正解だったよ!」

 

「正解でも、あんまり嬉しくないよ〜。」

 

「んふふ〜。これからは体温計が無くても、やっくんが居れば大丈夫ね。」

 

「ああ、なんてこった…」

 

僕は、まなちゃんにいつもいつもオモチャにされて、幾度となく彼女の体内へ押し込まれ、

知らず知らずのうちに彼女の正確な体温までがこの身体に染み込んでいたようだ。

 

∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽

 

「ねえ、やっくん。」

 

「んー? なんだい?」

 

「あたし、前にちょっと聞いたことがあるんだけど、あれって本当なのかなと思って。」

 

「何のこと?」

 

「風邪をひいたときに早く治す方法でね、お尻の穴に…」

 

「ああ、なんだ、あの話か…」

 

「お尻の穴にコビトを入れると良いって本当かなぁ?☆」

 

「だ〜っ!!! まなちゃん。それを言うならネギ!! ネギ!!」

 

「あら。そういえばネギだったかな。(ちっ!)」

 

「ネギだよ。間違いなし!」

 

「で、ねえ、やっくん。それって本当に効くの?」

 

「まあ、お尻に入れるってのは迷信に近いだろうけどね。」

 

「あたし、それ、試してみたいんだけど。」

 

「え!? …マジ?」

 

「まじ!☆」

 

「本当にぃ? まなちゃんってば、好き者…いや、物好きだな〜。

 まあ、退屈しのぎの暇つぶしと思ってやってみる分にはいいかもね。」

 

「それじゃあ、やってもいいのね?」

 

「いいとも。やってみれば?」

 

「うん。やってみる〜☆」

 

「ん? まなちゃん? その薄笑みはいったい…」

 

「え? 別っつに〜。何でもないよぉ。」

 

「ちぇっ! わかってるよ。

 ネギを取って来いって言うんだろう? ちょっと待ってろ!

 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………はあ…はあ……無い…」

 

「あら、無かったの?」

 

「ああ。あちこち探したけど、ネギ、無かったよ。残念だね。まなちゃん。」

 

「え? ちっとも残念じゃないよ。やっくんが居ればね〜。うふふ…」

 

「あ…ああっ!

 さては、ネギが無いの、まなちゃん、始めから知ってたのかぁ!?」

(まなちゃんのさっきの薄笑いの意味が、今わかった気がする…)

 

「やっくん、やってみろって言ったよね?」

 

「…確かに言った。でも、しかし…」

 

「責任…取ってくれるよね?」

 

「でも、しかし…」

 

「ネギに変身してくれるんでしょ?」

 

「でも、しかし〜!!!

 そ、そうだ、まなちゃん、やっぱり無駄なことはやめようよ。

 ネギをお尻の穴に入れると風邪が治るなんてのはまったく迷信だし〜

 やっぱり食べ物を粗末にするのはよくないし、

 ネギはお尻に入れるよりも、細かく刻んでそのまま食べた方が風邪には効くんだよ。

 ネギの中に含まれてる成分が酵素の働きでアリシンっていう物質に変わって、それが…あ…」

 

「ふぅーん。それじゃあ、刻んで食べてあげるから、やっくん、ネギに変身して!」

 

「げっ! そんな… あー! そう。お尻!!

 風邪をひいたら、やっぱりお尻にネギだよね。それっきゃないかもね!」

 

「あら? 食べ物は粗末にしちゃいけないんでしょ?

 あたし、おうどん、好きなんだけどなぁ。熱いのに刻みネギかけてねぇ。」

 

「うひ〜! ぜひとも、まなちゃんのお尻に入らせてください〜。お願いします〜!」

 

「うふふっ。そこまで言われちゃ断われないよねぇ。

 お望みどおりにしてあげるから、こっちへおいで。やっくん☆」

 

まなちゃんは掛け布団を少しめくって手招きをしている。

 

(ああ…結局こうなるんだな〜。とほほだよ〜。)

 

ある冬の日の、いつもと(全然)変わらない二人でした。

 

(終)

 


 

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